コロンビア大学シーナ・アイエンガー教授の「選択」の授業3回目の放送は「最良の選択」です。
より良い選択をするための実践的なノウハウを伝授します。
私たちの選択のより大きな根拠となるのは「過去の記憶」です。
その記憶がいかに曖昧なものであるかを、教授が鮮やかに紐解きます。
過去の間違った選択をしていても、ついまた同じように選択をしていませんか?と、教授は問いかけます。
その間違いをしないために選択の記録「選択日記」をつけようと、教授は勧めるのです。


脳は直感を使った選択をすることで近道をしようとします。
その直感という不確かな記憶を確かにするために、間違った選択をすることがあります。
様々なレンズを通して情報を解釈し容認できるような情報を探します。
このように直感は私たちを道に迷わせるものです。

どうすれば正しい道に戻れるでしょうか
何かを決断しようとするとき、「それについていったい何を知っているのか」と問いかけてみます。
    枠組みを超えて正反対の視点で考えてみる
    あえて自分の見解に反するものを探したり
    自分の考えと反対のことを言ったりして人の反応を見たりすることも有効です。

ここまでの話で、直感が私たちを惑わせるものだとしたら、理性だけで選択したいと思うでしょうか?

次に直感が役割を果たした例を紹介します。

ポール・バン・ライパーという、とても有名なアメリカ軍の海兵隊の退役中将がいます。
彼は「経験と知恵に基づいて決断する。」と公言しています。
データは使いません。使うのは直感だけです。

イラク戦争の開戦前に、ペンタゴン(国防総省)は大規模な軍事演習をしました。
ミレニアムチャレンジ2002と名付けられたその演習は、二つの陸軍の戦闘を想定していました。
一つは、最強の武器と最高の通信技術を備えたアメリカ陸軍
対する仮想敵国は、通信技術も武器もはるかに劣る中東のとある軍事国家です。
仮想敵国の軍事司令官に選ばれたのが、ポール・バン・ライパーでした。

そこで起きたことは非常に興味深いことでした。
アメリカ陸軍は理性的な分析を利用するつもりでしたが、バン・ライパーは最初から相手の出方をみて対応し総力を生かして直感で行動すると決めていたのです。
アメリカ軍が、バン・ライパー軍の情報源を叩き潰しても、バン・ライパーは全く動じませんでした。
礼拝の最中モスクのリーダーにメモを渡せば、必要な情報を流してくれるから問題ないのです。

更にバン・ライパーは、最新の武器や設備を奪われても、動じませんでした。
小型のボートに爆弾を搭載すればいい・・・
性能は劣っても、今あるもので十分ミッションは達成できる。

アメリカ軍の艦船の半数が沈められ、バン・ライパー率いる仮想敵国軍の勝利が明らかになり、このままでは真珠湾以来の大失態を招いてしまう・・・
軍の高官は演習を中止しました。

もうひとり素晴らしい直感の持ち主を紹介します。
心理学者のポール・エクマンはウソを確実に見破ることができる数少ない人物です。
成果率は95%、しかも30秒以内に見破ることができるのです。

ポール・バン・ライパーやポール・エクマンは何故そのような直感を持っているのでしょうか?
彼らが持っているものを「情報に基ずく直感」というならば、それは豊富な経験からくるものです。

ポール・バン・ライパーはベトナム戦争のとき、常に気付いたことをメモしていました。
どこでも紙切れを見つけて、とにかく気付いたことを書いてポケットにしまっていました。
そして、戦闘に最中、藪の中に部下を集めて
「いいか。これがこれまでに起きたことだ。」
「あれを試そう」「これを試そう」と、指示していたのです。

ポール・エクマンはもともと人間ではなく動物の研究をしていました。
動物の顔のごくごくわずかな動きを観察していたのです。
あらゆる種類の動物を対象に、攻撃する前の表情や交尾の前の表情、食事の前の表情を見比べていたのです。
そして、基本的にそれらの表現は人間にも通じるものだったのです。